顧問インタビュー
グローバル顧問 濱 一郎 氏
得意分野:越境EC / 新規事業開発 / マーケティング
日本と中国、両国のビジネスと文化、消費者行動を熟知。日本企業の中国ビジネス推進をあらゆる面から支援するエキスパート
Profile
1985年生まれ。日本在住18年、中国在住18年。日系大手メーカー(京セラ、リコー)などで新規事業をいくつか起こした後、2016年に独立。日本の数十社のブランドを中国でのブランディングに成功させる。同時に、複数の日本企業の越境ECプロジェクトにメインメンバーとして参画。800の日本ブランドの中国への誘致、および日本初の越境ECプラットフォームの立ち上げを成功に導く。
日本と中国それぞれのビジネスと文化に精通した強みを活かし、日本企業の中国進出やマーケティング、販路拡大などを多角的に支援する 株式会社THE H (https://www.the-h.co.jp/) を経営する。
中国進出支援のプロフェッショナルだからわかる「中国越境EC成功の秘訣」
インターネットを通じて国際的な取引を行う越境EC事業。販路を拡大したい企業にとってとても魅力的な市場です。特に巨大市場として注目されるのが中国ですが、そもそも習慣や国民性の違いもあり、進出に苦労している日本企業が多いのも事実です。
自身でも会社を経営し、中国進出のプロフェッショナルとしてグローバル顧問としても活躍くださっている、株式会社THE H代表取締役 濱一郎氏と、弊社CO-FOUNDER & CEO 北村 嘉章が「中国越境ECの今」について語り合いました。
盛り上がりを見せる中国向け越境EC。パンデミックにより、消費者の行動とマインドが大きく変化
北村
濱さん、今日はよろしくお願いします。私は以前、アリババで働いていましたが、すでに10年前のことであり、中国向け越境ECについてはトレンドも手法も大きく変化していると思います。今日は、「中国越境ECの今」についてリアルなお話をお聞かせください。最近の中国向け越境ECについて、濱さんご自身はどのような変化を感じられていますか?
濱
北村
パンデミックで物流が止まり、店舗販売ができなくなった。それで越境ECに取り組み始めた企業も多いと感じています。
濱
2020年前半から、飛行機が飛ばず物流が止まった。企業の中には40%から50%も売上が落ちたところもあります。大打撃ですよね。そういったこともあって、コストが少なくて、すぐに始められる越境ECへの関心が高まった面はあると思います。
でも、僕は中国のEC市場の盛り上がりには、実は中国のゼロコロナ政策が大きく影響していると考えています。
中国ではゼロコロナ政策による厳しいロックダウンによって、家から出ない生活が長期間続きました。外出制限はこの6月に緩和されましたが、今も外を歩いている人はほとんどいません。
それは、外出してデパートに入ったらその店が急に封鎖されて、2週間そこから出られなくなるといった事態が今でも起こりうるからなんです。ゼロコロナ政策は今も続いていて、外に出ること自体がリスク。国民は「出られるけど出たくない、出ない方がいい」というマインドセットになっています。
家で過ごす時間が長くなると当然、スマホを触る時間も増える。国民のスマホ利用時間はものすごく長くなっていて、そこで急速に普及しているのが、ライブコマースとショートムービーです。
急速に広がるライブコマースとショートムービー。「見てすぐに買う」が主流に。
北村
ライブコマースは日本ではまだなじみがない人が多いですね。
濱
ライブコマースは、わかりやすく言うとテレビショッピングみたいなもの。視聴者がウェブサイトやアプリ上でライブ配信を観ながらリアルタイムで商品を購入します。中国では今、ライブコマースが大人気で、市場が急拡大しています。
アリババ傘下の「 淘宝網(タオバオ)」や「天猫(Tmall)」、「京東商城(JD.com)」、中国版TikTok「抖音」などの大手ECモールのアプリには、ライブコマース機能が実装されていて、ユーザーはクリックするだけで商品を購入できます。
北村
ライブコマースとショートムービーはどう違うのですか?
濱
ショートムービーは15秒から1分ほどで視聴できる動画コンテンツです。商品紹介の動画を見て、リンクをクリックすると商品を買える。抖音はもちろん、WeChatや百度(Baidu)などのアプリにもショートムービーの機能が付いています。
ライブコマースとショートムービーは使われる時間帯が違います。ライブコマースはゴールデンタイム、つまり夜8時ごろから使われる。対してショートムービーは、隙間時間にいつでも見られます。
長時間スマホをいじっていると、文字を読むのは疲れてしまう。ムービーを見るほうが楽でわかりやすい。これからのECでは、商品をどう見せるかのコンテンツ力の高さが問われてくると思います。
北村
こうしたトレンドは、パンデミックが収束して人々が外出するようになったら終わるのでしょうか。
濱
僕は今後もずっと続くと感じています。
行動の変化は、短期間だと一過性ですぐに元に戻ってしまいます。でも、中国のロックダウンは、新しい生活様式が国民に定着し、習慣化するくらい長かった。その間に人々はネットで情報を得てその場で買うことの利便性に気づき、それに慣れてしまった。これは若者だけではなく全ての世代に共通して見られる傾向です。
中国の消費者の生活様式が大きく変化。キャッチアップに苦労する日本企業
北村
これまでも中国向け越境ECでビジネス展開をしてきた日本企業について、濱さんは現状をどのように分析されていますか。
濱
中国を筆頭に、世界中のECのムーブメントがライブコマースやショートムービーに動く中、苦戦している日本企業が多いと感じます。中国に限ったことではなく、マーケットは常に変化しています。1〜2年の間に変化していかなくてはならない環境で、日本の企業は、なかなか対応できていないように感じます。
中国と日本の購買行動で、大きく異なる点が2つあります。
ひとつは消費者の習慣。日本ではお水や米などは、スーパーへ行って買う人がほとんどでしょう。中国では、年配の方でもネットで購入するのが当たり前です。
それからもうひとつは、日本ではECで買うものは既に知っている商品が多いこと。商品名で検索して探して買う、要するに指名買いです。オンラインで知った商品ではなく、オフラインで情報を得てオンラインで購入している。
中国ではリアルで見たことがない商品がネット上に多くあります。コンテンツが面白くて、コンテンツを通していろいろな商品を知ることができる。そして購買意欲を刺激されて、ネットで買うという人が多いです。
今はスマホがすべて。中国ではテレビや雑誌から情報を得ることがほとんどない。オンラインで露出されたものに興味をもち、それを信じて購入するのが今の中国市場です。比率にすると、中国は、6対4くらいでオンラインが情報源となっています。
日本ではコンビニが強いですね。コンビニに行けば、いろいろ買えるからネットサーフィンはそこまでしない。
そもそも、日本人はお札が入ったお財布を持ちあるいている方が今も多いでしょう?中国では現金を持ち歩く人はほとんどいません。そこからして日本と中国では違いがあります。
パンデミックを契機に、中国の消費者の生活様式が大きく変化しているのに対して、日本はあまり変わっていない。その差はどんどん開いていく。越境ECにチャレンジする日本企業は今キャッチアップしておかないと追いつけなくなるんじゃないか、と僕は危惧しています。
日本の商品そのままでは売れない。見せ方や売り方の仕掛けが重要
濱
中国ではD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマーの略 / メーカー等が自社のECサイトなどから直接販売をする)が流行っています。今までは海外のものを買って当たり前だったものが、中国のものに変わりつつある。中国で作られた化粧品も人気です。
また、Z世代が好むものが全世代で人気になる傾向もあります。
一例として、私もプロモーションに携わっているボトル缶の日本酒があります。これは日本ではあまり売れていません。でも中国では1日で1万本以上売れたこともあります。誰が買っているのかを分析すると、まず若者が買う。そこから火がついて他の世代も購入する。
一方で、若者向けの製品は若者にしか売れないのが日本のビジネスですよね。
北村
日本では日本酒を飲む若者が減っているのに、興味深い話ですね。なぜ中国で売れるのか、売れるきっかけは何なのでしょう?
濱
日本は定番が好きなんですよ。一方で中国は目新しいものが大好きです。
インターネットで買うのがベースとなっているから、新しいものを発見し購入し、もしちょっと違ったとしても“だまされた”とは思いません。
中国進出するなら、そうした国民の考え方、生活の仕方を考慮して、マッチするように自社製品を変えていく、販売する上での見せ方も変えていく必要があります。それがとても大事です。
北村
中国の消費者の心理や生活様式をまず理解すること、そして既成概念にとらわれず、自社のスタイルを柔軟に変えていくことが重要なのですね。
濱
その通りです。このことを示す良い事例があります。
僕の支援先の一つに、香水やルームフレグランスなどの商品を展開する日本の会社があります。パッケージに動物のイラストがデザインされたパフュームスティックが日本国内で爆発的に売れていて、それを戦略商材として中国市場へ参入するプロジェクトが立ち上がり、僕はその販売戦略の立案と実行をサポートしました。
この会社は当初はフレグランスだけで勝負する計画で、この商品に特化した販売展開を行っていたのですが、僕はこの商品の中国消費者への訴求力からするとそれだけではもったいないと感じていました。
そこで、僕が提案したのは、このパッケージデザインの動物をブランド化して、文房具など他の商品カテゴリーに展開していくことでした。中国のフレグランス市場の規模には限りがありますから、こうすることで他の市場でも戦えます。
この提案がきっかけとなり、この会社は一つの販売展開からブランディングへとマーケティング戦略の大転換を行いました。
さらに、計画を大幅に前倒しして中国に現地法人を設立した同社は今、そこを拠点として商品開発を行い、他国へ海外事業を展開していく将来ビジョンを描いています。中国から世界的なトレンドが次々と生まれていることを目の当たりにし、その中心から「中国だからこそできるビジネス」を展開したいと。
北村
マインドが大きく変わったんですね。
濱
はい。このように、進出の初期段階から中長期的な視点を持っていることは、大きな強みになると思います。
「なぜ越境ECをやるのか」を明確に。越境EC参入は3年スパンで大きな絵を描く
北村
越境ECをこれから行いたいと考えている人に伝えたいことはありますか?
濱
日本と中国の生活様式がキャッチアップ不可能なほどかけ離れてしまう前に、今すぐにチャレンジを開始した方がいい。でも、最初から越境ECありきで考えてはいけない、ということでしょうか。
越境ECをやりたいと相談に来る企業の多くは、どうしたらいいかわからない状態にあります。自社商品の強みがあいまいで、新しい市場での優位性が不確かなまま、リスキーな状態で越境ECに突入しようとしている。
そういう場合、僕がいつもアドバイスするのは、3ヶ月くらいで初期分析をやってみませんか、ということです。越境ECがどういうもので、そもそも自分たちが参入すべきか否かを短期間で徹底的に市場調査して分析します。
分析の結果、「やらない」という結論に至ることもあります。でも、僕の経験では、その時点で進むべき他の道が見えているケースがたくさんある。例えば、僕の支援先の会社は初期分析を経て、越境ECから、日本をターゲット市場として中国でOEM先を探す方向へ大きく舵を切りました。
越境ECだけが海外ビジネスの唯一の道ではありません。中長期的な視点を持ち、広い視野で海外ビジネスの進展につながるベストな選択をしていけばいいのです。その選択肢の洗い出しから選定、その後のビジネス推進も、僕らはもちろん支援しています。
北村
では、「越境ECをやる」となったら次のステップは?
濱
支援先企業と一緒に、向こう3年のビジネスプランを作ります。
日本の企業は中長期的なスパンで投資を考えない傾向があります。経営陣と話していると、よく1〜2年で採算はとれるのかという話になるのですが、それならむしろ株を買ったほうがいい。
越境ECの仕組みを身につけるのが1年目、2年目で市場での認知度が上がり、3年目でやっと収支はトントンになる、そして4年目から軌道にのってラクになり、それ以降は回収できる。3年目までは投資だと、長いスパンで見ることです。すぐに投資した分を回収しようとしたら小さなビジネスで終わってしまう。それなら越境ECではなく、普通の貿易をやればいいはずです。
やるなら3年目で売上規模3~5億円を目指したい。中小企業でもチャレンジできます。要は商品が強いかどうか、なんです。そのくらいの規模感を持って、腰を据えて臨んでほしい。
「なぜ越境ECをやるのか」を初期分析を通して明確にできていれば、3年間のビジネスプランはスムーズに作れます。初期分析の段階で、中国市場の環境分析からマーケティング戦略立案、4Pに基づく施策立案まで、かなり深いところまで検討するので。
北村
3年かけて浸透度を高め、売れるようになっていくというのはおっしゃる通りだと僕も思います。ただ、越境ECに挑戦したが成果がでないとなると、フェードアウトしてしまう企業があるのも事実です。
たとえば、一度越境ECに挑戦したけどうまくいかなかった。そういう企業でも、濱さんのような顧問を迎えて、新戦略を立て直して実行していけばうまくいく可能性は高いですか?
濱
大丈夫ですよ。一度どころか何度か中国進出を試みて、代理店も変えたけど、ダメだったと僕のところにくるケースもたくさんあります。
そういう企業に話を聞くと、ただ中国の会社に商品を卸していただけという例がとても多いです。自分から商品を変えていく、どうやって見せていくかなど、中国の相手方とすり合わせもしたことがない。それでは、なかなかうまくいきません。
僕たちはそういう状況の企業に解決策を提案するだけでなく、実行も支援します。ECサイト上にアップする商品紹介の動画や広告、箱や包装紙といったパッケージなども僕らが作るんです。商品をいかに見せて売るか、仕掛け全般のノウハウですね。
調べるだけではわからない価値が提供できるのが、グローバル顧問
北村
今、日本からの物流はどうなっているのですか?
濱
例えばアリババなら、日本の港の倉庫から中国での宅配も含めてサービスがすべてついています。企業は日本の港にあるアリババの倉庫に納品し、必要なフィーを支払うだけです。
北村
インフラが整っている点が昔と違いますね。昔は自力で物流を頑張るところが多かったけれど、今は商品の流れは整っているから、企業はサイト上でどう見せて売るか、サイト内競合にどう対応するか、といったことへの投資に注力できるのですね。
濱
以前は商品をどうやって中国まで持っていくかが大きなテーマでしたが、今は商品を中国へ持っていった後の戦略が大事です。
商品を持っていくのが簡単になったため、参入する企業は増えていますが「日本で売れているのはコレ、だからコレを売ろう!」ではうまくいきません。
北村
商品の理解も含めて、カスタマーとのコミュニケーションの部分がきちんとできないと難しい。こまめにやっていく企業が勝ち残っていくということでしょうか。
濱
そうです。ユーザーを理解することも重要です。
日本のベストセラーが中国のベストセラーになるわけではないですからね。
北村
ユーザーを理解し、中国向けに戦略を立て直すことが必須ということは、中国進出を考えている企業が、濱さんのような専門家を活用するのは重要ですね。
濱
そう、専門家がキーワードです
日本は「とりあえず」自分で調べる。その「とりあえず」は間違っています。とりあえず調べてできるようなビジネスはほとんどありません。
越境ECだったら、中国の歴史や国民性や、背景にあることから感覚的なところまでわからなくてはいけない。ネット上で調べただけでは、そこまではわかりません。
越境ECに挑戦するのであれば、実際にやった人からいろいろ聞くのが一番学べます。実際に実行しなくてはわからないのです。
ぜひ「グローバル顧問」としての僕の知見や経験を活かしてもらいたい。「何もわからない」「どうしたらいいかわからない」状態からのスタートでも大丈夫です。越境ECは、やり方さえわかれば、なんといっても大きなマーケットですから、日本の企業にもどんどん挑戦してほしいですね。
北村
今日は興味深いお話をありがとうございました。
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