顧問インタビュー

グローバル顧問 竹中 俊郎

得意分野:営業・マーケティング / 食品・飲料業界

生産、流通、販売全てのチャネルでの第一線の経験を有する、食品マーケティングのスペシャリスト

ニュージーランドの取引先

Profile

総合商社、食品卸、酒類メーカーで長年海外営業キャリアを積んだ、食品マーケティングのスペシャリスト。生産、流通、販売全てのチャネルでの第一線の経験を有する、業界でも稀有な存在で、「現場での経験」を何よりも大切にしている。
欧米・アジア・オセアニア地域の食品・飲料業界に精通。豊富な経験と知見、広いネットワークを活かし、これから海外進出に挑戦する企業のハンズオン支援に積極的に取り組む。

写真:ニュージーランドの取引先を2018年に訪問(左から竹中氏、酒販店オーナー)

商社と酒類メーカーで海外営業としてプロフェッショナルなキャリアを積み上げ、現在は「グローバル顧問」として活躍する竹中俊郎氏。食品・飲料業界の深い知見と営業経験を活かし、海外進出に挑戦する中小企業の支援に従事されています。

「食品業界は下克上があるから面白い。日本企業の中小企業が、海外で大化けすることも可能。」と語る竹中顧問は、将来の可能性を見据えたビジョンを描き、企業の成長を後押しする力強い伴走者。今回は、企業に伴走する中で見えてきた、「顧問を活用することで生まれるメリット」と、これからの日本企業に必要なことについてお話しいただきました。

世界中で食品ビジネスに携わった知見と経験を「グローバル顧問」で活かす

― グローバル顧問として、企業の支援を始める前のキャリアについて教えていただけますか?

三井物産の食料部門に30年ほど勤めていました。欧州全般、アメリカ、豪州など、輸入関連に携わり30カ国近くを周ったでしょうか。40歳を前にハーバード・ビジネス・スクールで半年学ぶ機会も得ました。その後2011年に宝酒造に入社し、アメリカやカナダでの営業や東南アジアの現地法人立ち上げに携わりました。

― 数々の国に渡り、多岐にわたるキャリアがおありですが、退職後、グローバル顧問として働こうとしたきっかけは何でしょうか?

定年退職したものの、まだまだ営業の第一線で働きたい、引退するには早いと思っていました。健康で元気ですし、経験や人脈など、これまでのキャリアで培ってきたことを役立てたいと考えていたところ、退職を機にいくつかの企業の顧問のお話をいただいたのです。顧問として活動するのであれば、自分にとって馴染みのない業界や市場、商品など、新たなフィールドでも勝負したいと思いまして、紹介してもらえる顧問先がバラエティに富むサイエストの「グローバル顧問」として働くという選択をしました。

― 海外に進出する日本企業にとって、経験者の知恵は重要だと思われますか?

経験者の知恵というよりも、経験者が持っている失敗経験が大事だと思います。僕らの時代はまだコンプライアンスもガバナンスも今と比べてゆるかった分、さまざまなビジネスシーンで多様な経験をすることができました。こうした経験はハウツー本には載っていないし、マニュアルにも書いていないことです。

僕らの世代は、今の現役世代よりも、危険な匂いを察知する力が勝っていると思います。失敗や危険をくぐり抜けた経験から「それは信用してはいけない」「ここはもっと調べてみたほうがいい」とアドバイスができます。

― 時代が変わり、なんでも情報がネットに落ちていると思われがちです。しかし、ネットに落ちていない情報というのが実はありますよね。

一般的に知られている情報はネット上で網羅されており、拾いやすいと思います。オンラインで簡単に世界中とつながることもできます。

ただ、会話以外のところにもヒントがあるのです。実際に会って話した時の相手のちょっとした表情の変化とか、持ち物、服装、事務所の中の環境や雰囲気とか、やはり現場に身を置くからこそわかることがありますね。

オンラインやデジタルでは拾いきれない情報を、自分で感じて自分で総括していくこと。情報に流されてしまわないようにすることが大切です。

Massey大学

[ 農学部が有名なMassey大学(ニュージーランド)での講演を終えた後の竹中氏(写真左 2018年) ]

支援先企業の社員たちが「もう一歩」を踏み出せるよう背中を押す

― 竹中顧問の顧問先の一つに、地方の水産卸売会社がありますね。ニッチな業種ですが、どんな支援をされているのでしょう?

この企業は海外輸出を本格化させたいと考えていたので、具体的な目標を立てる必要がありました。そこで、まず課題を整理することから始めました。

― 会議はオンラインで行っているのですか?

実際にこの企業に携わることになった時がまさにパンデミックのタイミングでした。なおかつ遠距離ということもあって、月に1回、オンライン会議という形でご支援しています。

― 支援を始めて実際にどのような成果が出ていますか?

着実に売上が伸びて、今や3倍の伸張が見えています。取扱っているのが鮮魚で足が早いので、近場のマーケットへ販売したほうが鮮度をアピールできますから、今は東南アジアに販路を広げています。今後は他の地域へと拡大していくでしょう。

― そうした戦略も竹中顧問がお考えになるのでしょうか?

私は、水産は専門ではありませんが、お酒を売ってきましたから、お酒を取扱っているところには魚も取扱っているもので、各国のマーケットサイズは把握しています。

たとえば、台湾は1万店以上の和食店舗があるから、もっと売り込めるはずです。でも現在取引している販売代理店がそこまで商品を流せていないとなると、販路拡大のためには他のチャネルも使わなくてはなりません。そこで具体的に、こういう代理店があるよ、ここには日本に支社があるから連絡してみたら、などとお話します。

― ただマーケットの情報を紹介するだけでなく、具体的にチャネルまで伝えるわけですね。

そうです。社名を伝え、必要なら事前に電話してある程度のお膳立てをします。昔の私の客先だったり、おつきあいがあったりするところも多いですから。

― 実際にこの企業の支援を続けてきて、社員の方々の動きにドライブがかかりはじめたと感じられたことはありましたか?

最初のころは戸惑いもあったと思いますが、今は初めてコンタクトする海外の取引先候補へ営業の電話やメール、商談にも積極的に取り組んでいて、とても頼もしいと思っています。僕の役目は、そこでさらにもう一歩、しつこくやったほうがいい時に背中を押すことなのです。

日本の水産業界はやや閉鎖的で、取引先の輸出商社からの情報提供が少なく、エンドユーザーである消費者の声や現地のマーケットニーズを入手するのが困難という現実があります。しかし、だからといって引き下がるのではなく、業界のタブーに立ち向かい、少しでもそうしたリアルな情報を入手できるようあきらめずに食らいついていきたい。そういう努力の先に、海外でのビジネスの広がりがあると思うのです。

「その先のビジョン」を描けるよう、伴走していく

― 顧問として携わる中で、支援先の企業にこれだけは伝えたいと思われることはありますか?

そうですね、僕が一番お伝えしたいのは「その先の大きな絵を描き、長期的なビジョンを持つ」ことの大切さでしょうか。

日本産の商品を海外に輸出している企業があるとします。その商品が日本独自のものであれば、そのビジネスモデルのままでもいいかもしれません。でも他国でも生産できるものだとしたら、そのままでは将来的により競争力の高い他国の企業に負ける可能性がある。

そういうときに必要なのが「大きな絵」です。例えば、生鮮品を使った商品の場合、海外に拠点を作って、現地で生産、加工、物流管理までを行うほうがより鮮度の高い商品を低価格で提供できるかもしれません。こうした長期的で広い視点で自社を取り巻く環境を捉えていきたい。

輸出はグローバル経営に至るまでの一つのステップにすぎない、と僕は考えています。これまで日本の市場だけでやってきた企業にとっては、グローバル視点でビジョンを描くことはハードルが高いかもしれません。でも、日本の企業には、もっと海外で大きなチャレンジをして市場を拡げていってほしい、そう思っています。

― 竹中顧問が描いている将来図はもっと大きなビジョンなのですね。

日本の食品業界のグローバル化は、他業界に比べて非常に遅れていると思っています。

あまり知られていませんが、実は日本の豊洲市場で、魚類の輸出で大きなパイを握っているのは、日本の会社名がついていますが、アメリカ資本の企業です。そういうことがあちこちで起こって、海外にどんどんノウハウを持っていかれてしまうのではないかと僕は危惧しています。日本から早く食品のグローバル企業を出していかねばならないと思います。

豊洲市場

― 日本の食品業界に対する思いがとても強くおありですね。

衛生や品質などの日本の技術は素晴らしい。ただし、それにこだわりすぎると小さくまとまってしまいます。日本企業は完璧主義で、それは良い面である一方で、殻を破れないデメリットもあります。

― なるほど。では、食品業界ならではの特徴や面白さはどこにありますか?

なんといっても、食品業界には下剋上があることですね。

たとえば、「ぽん菓子」ってありましたよね。日本ではすっかり見かけなくなりましたが、実はアメリカでは今でも大人気のお菓子です。
かつて三井物産がぽん菓子を日本からアメリカに輸出して、現地で工場も建て、ぽん菓子に現地で好まれるようなフレーバーをつけたところ、おいしくて体に良い健康食品としてウォールマートなどの店頭にも並び、売れに売れました。最終的にアメリカの大手食品会社に売却しましたが、ビジネスとしてはとんでもなく大化けしました。こういう一発逆転ドリームが食品業界にはあります。

ぽん菓子

[ ぽん菓子 ]

社内で人材を育成するより、まずは顧問活用の検討を

― 顧問という仕事のやりがいを教えてください。

クライアント企業の社員の方々とお互い気心がしれて、企業の状況に対する理解度が上がるまで時間はかかります。でもいったん動き始めて実際に数字が上がってくると、私も嬉しいですし、相手も嬉しい。ビジネスでは、数字が明確な結果を示しますから。そういう時にやりがいや嬉しさを感じますね。

― 顧問に向いている人というのはどんな方なのでしょうか?

顧問に向いているのは、まだまだ現役でいたい意欲がある方です。

もし僕が定年時に完全に仕事を辞めていたら、僕の持っている食品業界の情報がアップデートされることはなかったでしょう。仕事に対してハングリーな方は顧問に向いていると思います。

― アップデートは重要ですか?

アップデートはとても重要です。僕は今、6社ほど顧問を引き受けていますが、いろいろな業界に関わることで多角的な視点からの情報が入ります。

新しい情報を得て、過去の経験をアップデートし、次の一手を読んでいく。戦略にどんどん落と込んでいくのです。

― 顧問を活用したほうがいいのは、どんな企業でしょうか。

人を育てるには時間とお金がかかります。終身雇用制が失われつつある今、社内で人材を育成するよりも、最初はブースターがわりに顧問を使うといいと思います。

市場が縮小する日本。売上増には、海外進出を検討すべき

― 顧問として今後携わっていきたいことなど展望をお聞かせください。

パンデミックが早く終わり、海外に行って、顧問先企業と二人三脚で市場開拓をする仕事をしたいですね。実際に客先をまわって市場開拓をすると飛躍的に数字も伸びます。とにかく外へ出て、成果を自分で直接確かめたいなと思います。

― 顧問を使うことを検討している企業へのメッセージをいただけますか。

顧問は決して敷居が高いわけではありません。新しいビジネスのチャンスを拡げるために、最初は顧問と一緒に挑戦してみてほしいですね。

その事業をやろうと決めたなら、最初から大きなリスクをとるのではなく、初めは顧問と一緒にビジネスモデルを確立させる。その後、専任人材の雇用や育成を検討するのが良いステップだと思います。

― 海外事業が未経験の企業の場合はどうでしょうか。

なにしろ日本の人口は減っています。市場規模が小さくなっている中で売上を伸ばすとすれば、新しいマーケットに打って出るか、あるいは経営を多角化するか、この2つくらいしかありません。多角化は難易度が高いですから、グローバル展開をしていくのが経営者としては取りやすい戦略だと思います。

― 今日はたいへん興味深いお話をありがとうございました。

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